小島 茂(学歴ネット主宰者)
本誌(2011.11.25) で、岩手大教育学部で、大学教員の質低下に関して、准教授が6名の教授を名誉毀損で提訴した前代未聞の事件について紹介したが、その後、准教授本人から以下の意見が寄せられた。 ●今回の裁判の根っこにあるのは、教員養成学部における「専門と教職」の長年の対立ではないかと考えています。高等教育機関(それも教員の世界)でディプロマミル的行為が制度として行なわれていることに関してメディアで異を唱え、それに対し懲戒申請を繰り返して行うことは名誉毀損と虚偽告訴であり、加えて学問・言論の弾圧と考えますので、裁判を通じて断固抗議します。おそらく、低学力の教員を派遣し、2-3年在席させて、修士号を与えるという制度は、先日の東京都の先生のご指摘にもあったように、全国の教員養成学部でおこなわれているのでしょう。残念ながら、これが日本の教員養成機関の実態です。(一部修正) 准教授の主張は、以下、地元の岩手日報『日報論壇』(2010年12月1日)に掲載された。 ●岩手大学教育学部における「実践力」重視の教育方針に関する大学院生の投書が本紙に掲載された。11月4日付では「学問を大切に」とする現状批判であった。11月18日付では、批判の批判「非実践的な頭だけの知識よりも実践を重視」という現状を擁護するものであった。 筆者は、教員には大学卒としての教養と担当する科目の教科書よりも数ランク上の学術的な裏付けが必要であると考えている。後者がいうところの「問題解決能力」とは具体的に何であるか不明であるが、どの分野においても、最低限の知識と思考は必要である。しかしながら、教員養成系大学の教員・学生には後者のような意見を持つものも少なくない。むしろ多数派だろう。 私が不思議に思うことは、学部卒で一人前と考える発想と制度である。どこの企業・役所が20代の新人を即戦力として扱うだろうか。3年程度はどこも見習いである。どんな職業でも、最初は初心者で、「実践や経験」を積みながら一人前になるのである。大学を含め学校教育はその土台作りにすぎない。それは学問の世界も同じである。知識を体系化し、概念を形成するには時間がかかるのである。しかしそのプロセスで得られた知識は、本当に役に立ち、実践の土台となる。 筆者は、「小学校教員には中学で習う程度の学力があればよい」とする雰囲気を着任早々感じた。それは私の偏見でなく、師範学校で実際行われていたことである。教員採用試験が高校入試程度の難易度であることも無関係でないだろう。 私が懸念しているのは、低学力の先生がさらに児童・生徒の学力低下を加速させる負の連鎖である。家政科で食物学と栄養学を担当して2年になるが、3つほど事例をあげる。 ① 大学院に県教育委員会から派遣されている高校家庭科教員の講義を担当した。英語がまったく読めないので、仕方なく、学部生用の授業を行った。中学校で習う元素記号の意味がわからず、連立方程式が解けない。この先生には、来春めでたく修士号が与えられるだろう。入試には、英語と専門科目はなく、計画書と面接のみである。在学中もわれわれの税金から給料は支払われる。 ②. 国語科の学生に「好きな小説家やジャンルは」と尋ねると、「教科書しか読んだことがない」が大半である。 ③3. 5平方メートルを平方センチメートルに、時速30kmを秒速に換算する調査を100人に行った。正解率はおよそ3割である。半数以上の学生が、小学校で習う面積や速度を理解していない。 ゆとり教育で育ち、空洞化した学問教育しか受けていない地方国立大教育学部生はこの程度である。学力低下は、教育学部だけの問題でないが、小学生程度の学力で「実践」をやってもらっては困るのである。更なる学力低下を招くのは明白だ。それを黙殺し、目先の教員採用率に振り回されている現状はもはや大学とは呼べない。 国は大学および大学教員の質保証を唱える一方で、質を下げても修士、博士を増産させる施策を打ち出すという相矛盾した行為をしているように見える。そして現場である大学や学部によっては施策を悪しき方向に誘導し、学位の信用性低下と大学教員の質的低下に拍車をかけるという結果を招いている。 by darmouse | 2011-12-18 16:39
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